生曰く、大学は○○で大学生は××である

  • interview

    K.A.さん
    (一橋大学卒業後、東京大学大学院進学。現在、修士課程)
#1

大学を説明する語句の代表として、「就職」と「研究」があります。しかし一方で、目まぐるしい日々と将来への焦がれの中で、われわれは前者の方を常に注視し、後者を忘却しがちではないでしょうか? このインタビューでは、大学院に入学し研究活動を営む一橋卒業生に話を伺い、その思いを紐解きます。





学問は相互連携する

――よろしくお願いします。

 お願いします。


――ではまず、経歴と所属を教えてください。

 一橋の商学部を出て、東京大学文系大学院の修士課程にいます。専攻は秘密です。身バレ しちゃうので(笑)


――わかりました。では、院に進学したKさんは、どんな学部生だったのでしょうか?

 うーん。実を言うと、そんなに真面目ではなかったですね……。1年生のときのGPAなんて、2.5を割っていますし。

 でも、好きな講義とか取りたい講義っていうものはありました。人類学とか。好きな講義に関しては自主的に勉強していたし、その分だけ成績は良かったです。逆に言えば、興味が沸かなかった科目に関しては、おろそかにしていました。いま考えるともったいないし、これは反省ですね。どんな科目も、どこかに面白さはあるはずなので。


――なるほど。取りたいと思える講義はどうやって判断したんですか。

 これは高校の教えだったんですけど、僕はあることに興味を持ったら、とことんルーツにさかのぼる勉強をしていました。このおかげで、高校生のころから学問的な繋がりが見えていたんだと思います。

 高校のころは倫理・哲学、それに政治学が好きだった。倫理や哲学って、よく「意味がない」とか「ムダ」とか言われるじゃないですか。僕も最初はそう思っていたんだけど。でも、これらって「僕らの考え方」を示すのと同時に、「僕らが考えているということはどういうことか」という、ひとつ次元を画したユニバーサルな指針を打ち出してくれているんですよね。商学部が学ぶマーケティングにも、経済学部が学ぶマクロ経済にも、もちろん法学や社会学にも、哲学は通奏されている。

 もちろん、これは哲学だけに言えることではありません。あらゆる学問は有機的に連携している。文系・理系に関係なく。

 一橋の強みである「文系単科」という特徴は、こうした意味で裏を突かれると弱みにもなりえるのかもしれませんね。四大学連合で東工大などと繋がれるのは確かだし、図書館にもガッチガチの数学書があったりもしますけど、やっぱり敷居は高いですし。




大学院Q&A

――では、そうした生活の中で院進を決意したのは、どんな理由があったのでしょうか。

 うーん。いろいろ高尚な理由は作れますけど、やっぱりもう少し勉強したかったからですね。学問の真髄のようなものがあるとしたら、少しでもそこに近づきたかった。その根底にある感情は、好奇心だと思います。

 正直、就職が嫌なのもありました。嫌というか、なんか突然な気がして。自由に勉強できる期間が4年しかないっていうのは、要領が悪いからかもしれないけど、短いです。

 ただまあ、ちょっと怖かったですね。


――具体的にはどういった怖さでしょうか。

 まずは、お金。最短で大学院を卒業するのが24歳なので、それまで両親の手を借りなくてはならないのが心苦しかったです。奨学金を借りられたので、なんとかなっているんですけど。

 あとは精神的な怖さもありました。一年間の海外留学をした人はもしかしたら分かるのかもしれないですけど、同期が一生懸命に働いてお金を稼いでいるとき、僕らはまだ学生なんです。なんとなく、不安じゃないですか? もちろん、それが当たり前で、周りの友達も理解してくれていましたが、やっぱり不安でした。

 一度社会人になってから院に戻ることも考えましたが――これをしようとしている学生も多いと思うんですけど――これは税金が難しいんです。所得を得ると、次年度はそれだけの税が課せられます。院生生活をしながら税金払って研究して就活もして……となると、さすがに参っちゃうので。


――たしかにそれは大変です。では逆に、院に進学して良かったことはなんでしょうか。

 まず当たり前ですが、自分の好きなことを研究できることです。これに勝る楽しみはないですね。つらいときもありますけど、やっぱりどうしても楽しいです。これだけは間違いないです。

 それと、世間で叫ばれているほど、文系修士課程で就活できないことはありません。企業の方から研究室にアプローチがあって、そこから内定をもらう人も多いです。とはいえ、他の企業を受けていたりもします。

 あとは……頭が良くなります。そりゃそうですね(笑) でも、これは先輩の話ですが、研究発表の際の長時間プレゼンや英語スピーチは、修士を卒業して就活してからも役に立ったそうです。

 それと、修士は就労ビザが取りやすいそうです。僕も最近まで知りませんでした。海外で働く人にとっては便利かもですね。





角度を変えて、美しさを知る

――なるほど。それはそうと、一橋から院進するのは結構珍しいですね。

 そうですね。最近は特にその傾向が強いみたいです。卒業生のうち、8割くらいが就職するって聞いたことがあります。僕も途中までは就活するつもりでしたから。

 一橋でもったいないのは、キャリア系の講義はたくさんあるけど、アカデミア系の講義がないことですね。これも立派な進路だと思いますので、あったらいいなと思ったりもします。


――積極的な進路として院に進む人が増えてほしいですね。

 その通りだと思います。


――では最後に、卒業生として学部生に伝えたいことや、やってよかったことなどをお願いします。

 院進であれ就職であれ、その選択が本物であるかどうか。これが一番重要です。その選択をして、未来において振り返ったとき、ああこれで良かったんだなあと思えること。これが本物であるということです。こうした選択をするには、いろいろなことを知り、学び、視野を広げることが不可欠です。

 視野を広げるなんて月並みな言葉ですが、とても大切です。視野を広げるというよりは、それによって世界の美しさを見つける観察眼を養ったらいいと思います。

 僕の好きな言葉に、「変哲のない石ころひとつにも 地球という天体の歴史が克明に記されているのである」というのがあります。奥泉光の『石の来歴』という本からなんですけど。この通り、一見平凡に見える世界も、ひとつ見方を変えてやるだけで美しくミステリアスなものになるんです。こうしたモノの見方をひとつでも多く知ることが、「学び」なんだと思います。

 海外に行くとかはその手段のひとつとしてみんなが恋焦がれますが、それだけじゃありません。いろいろな本を読んだり、いろいろな人と話したり、いろいろな授業に出たり……大学はそういう場所で、大学生はそれが出来る人々です。もし後輩の皆さんがそうした4年間を過ごせたのなら、それは幸せなことで、本物に違いないでしょう。



院生曰く、大学は○○で大学生は××である [終]